ある日、僕は亡くなったお爺さんの山小屋を片付けに行く事になった。
山小屋にはもう何年も行っていないので、道に迷ってしまうのではないかと少し不安に思っていたが、いざ山道を歩き出すと小さい頃の記憶が殊の外鮮明に残っていたのには自分でも驚いた。二股に別れた道を右に、三叉路は左に、そして小さな川を渡ると山小屋が見えた。
驚いた事に鍵が掛かっている筈の山小屋の中に先客がいた。
木製のドアを開けると、白いワンピースを着た小さな女の子がちょこんと座っていたのだ。
女の子は振り向いて僕を見上げて「見慣れない顔ね」と言った。
「うん、ココに来たのは随分と前の事だからね」
僕がそう言うと、女の子は少し申し訳なさそうな顔になり、「あなたはココの死んだ誰かの知り合いなの?」と訊いた。
「僕は死んだお爺さんの孫にあたるんだ」
「そう、お気の毒ね」
「いいえ」
小さいと言っても女の子は小学校の高学年くらいではないだろうか。
随分と大人びた物言いをする子だった。
その眼差しもどこか大人びていて少し気味が悪いくらいだ。
気味の悪さを感じたのは、誰かに憑依でもされているかのような幼い顔と女の子の口から発せられる言葉のバランスが悪い所為なのだろう。
「あなたはココに何をしに来たの?」
「片付けを頼まれたんだ」
「誰に?」
「お婆さんだよ」
「お婆さんはまだ死んでなかったのか、それは良かったわね」
「まあね」
「それで、ココの何を片付けるの?」
「全部だよ。この山小屋を取り壊すから片付けて来るように言われたのさ」
「それは大変ね。こんな小さな山小屋でも全部を片付けて運び出すとなると1日や2日では終わりそうもないわ」
「そうだね、でも思っていたより随分きれいだ」
「なたのお爺さんが死ぬずっと前から、私が使っていた所為よ。黙って人の小屋を使うのは悪いと思って、掃除だけは欠かさなかったから」
「それはどうもありがとう」
「あなたは、これから毎日来るのかしら?」
「うん、そうだね。春休みの間毎日来ると思うよ。そうでなければ、春休みが終わっても学校のある街に帰れなくなってしまうからね。なるべく早く終わらせて僕は街に帰りたいんだ」
「あら、そうなの。それじゃあ、お婆さんに会いに来た訳ではないのね?何だか可愛そうなお婆さんね」
「そんな事はないよ。お婆さんは僕をそれほど可愛がってはいないから、別に僕が会いに来なくたって寂しくないんだよ」
「ふーん」
「君は、毎日ココに来ていたのかい?」
「毎日来る時もあれば、来ない時もあったわ」
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